考察

口臭について

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口臭 美容 論文

豊かで平和な世の中になってくると清潔志向が強くなり、口臭を気にする方が増えてきます。

この病気は専門医から見ると取るに足りない症状であるようなものでも、本人にとっては社会的存在を許されるか否かというほどの深刻な問題になることがあります。

以前は口のなかの病気に由来する口臭と、内臓疾患に由来する口臭に大別されていました。

しかし、最近では他覚的に不快な臭いがあろうが、なかろうが、本人が自覚していればそれを総称して口臭と呼んでいます。

じつは、口臭は心身症の始まりで、その症状の裏には心の病が隠されています。

日本での口臭に関する一般人の意識は、約3万人を対象とした1999年度の保健福祉動向調査に見ることができます。口のなかに何らかの問題を持つ人が、本当に口臭のある人の70%に認められ、そのうちの、実に14.5%の人が口臭を気にしていることが分かりました。この数値は、歯周病や虫歯に関連する悩みに次いで、4番目に高いものです。この割合を日本人の人口にあてはめると1000万人以上の人が、少なくとも口臭に関して不安を抱えていることになります。

それでは、実際に口臭を発している人はどれくらいいるのでしょうか。日本の成人2672人を対象に揮発性硫黄化合物(VSC)濃度を測った報告があります。この調査は、1992年に実施されました。口臭が出やすい昼食前に計測したところ、実に23%の人が社会的に問題となりえる臭いの強さが測定されました。

以上のように、極めて多くの人が口臭に対する不安や訴えをもっており、また、実際に口臭がみられることが分かりました。ただし、不安や訴えを持っている人が実際に口臭を発しているかどうかは、また別の問題です。別の調査では、口臭があることとそれを自己認識していることは、全く関連しないことを示しました。比較的若い世代では、口臭があると思っている人は確かに口臭ガス濃度が高いようですが、45歳以上の集団では、逆に口臭があると思っている人の口臭ガスレベルが低い結果となりました。すなわち、自分の鼻は必ずしもあてにならないことになります。だからこそ、ひどい口臭があるのに自分だけ気づいてない人や、口臭がないのに、口臭があると思い込んでいる人が少なくない現状があるわけです。これは我々が、口臭のように鼻に近いところで発生している自分の臭いは感じることができないようになっているからです。生理学的には臭覚疲労(順応)といい、絶えず自分自身の臭いに晒されているため、臭覚が慣れてしまって識別がつかないようになっているためです。

また、口臭を持っている人であっても、1日中臭いを出しているというわけではありません。生活のリズムに対応して、臭いは強くなったり弱くなったりしています。

起床時は約50%の人が口臭を発していると報告されています。次に問題となるのが、昼食前、夕食前の時間帯です、口のなかで臭いがつくられる仕組みや、臭いの洗い流しを考えると、唾液の分泌が抑制される時間帯に口臭が強くなります。

唾液の分泌には交感神経と副交感神経が深くかかわっていますから、自律神経系とも密接に関係しているともいえます。

口臭予防には舌清掃により舌苔を除去することが最も効果的です。この舌苔の主な成分は上皮細胞で、口の頬粘膜・歯肉粘膜・口蓋粘膜そして口腔底粘膜から剥離・脱落したものが、唾液の流れに乗り、舌上に堆積したものと、舌粘膜に由来する細胞が含まれています。

これらの舌苔中の細胞の特徴は、付着する細胞の数が多いことです。たとえば、頬粘膜の細胞1個あたりには25個の細菌が付着しているといわれていますが、舌苔ではその約4倍もの細菌が存在します。しかも病原性細菌が多いわけですから、口臭予防は口のなかの細菌数を減らし、呼吸器感染症の予防にもつながるのです。

口臭の主成分である揮発性硫黄化合物(VSC)、いわゆる硫化水素やメチルメルカプタンは、

青酸ガスに近い毒性を持ち、細胞中でエネルギーをつくる過程を強く阻害します。

口臭の原因物質であるVSCは、生体で最も重要なタンパクの一つであるコラーゲンを分解したり、合成を阻害したりします。口臭は歯周病で強くなりますが、歯ぐきの主成分であるコラーゲンを消失させるため、逆に歯周病の誘因になっているともいえます。

一方、コラーゲンは、最も怖い疾患であるがんの転移・浸潤に対するバリアーであり、多くの疾患や老化にも関係します。癌は上皮の基底膜を破って増殖し、血管・リンパ管の基底膜を破って全身に転移します。この基底膜ではⅣ型コラーゲンが重要な働きをしますが、VSCはこの基底膜の伸張を阻害します。

VSCの毒性は大気汚染の立場からよく研究されており、300~500ppmの硫化水素は生命を危険にさらすといわれています。この濃度は最も強い口臭の200~300倍ですので生命の異常は心配ないといえます。しかし、0.3ppmの濃度、これは通常の口臭の濃度ですが、この濃度で大気中にVSCが長時間発生した場合、悪心・不眠・呼吸障害などが発生する可能性があります。

一方、老化や発がんを促進する代表的な原因に活性酸素が上げられますが、生体側では有害な活性酸素を消去しようとSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)が働き、生体を守ります。

しかし、VSCがSODの働きを阻害します。したがって、口臭が老化や発がんを促進する可能性も考えられます。

口臭を訴えている方には特に医学的な問題が認められず、口のなかの清潔状態も非常に良好で、客観的に口臭が認められない場合があります。このような方を自臭症といい、口臭を訴える方の80%以上が自臭症なのです。

嗅覚は人間の特殊感覚のなかで、もっとも順応の早い感覚です。私たちが自分の口臭を自分で評価することは現実的に困難ですが、それでも自分の身体から悪臭が発散していて他人に迷惑をかけているという恐れを抱いたりするのは、臭いそのものよりも、良好な人間関係を築けなくなっている対人恐怖症が背景にあるからです。

人間は群れをなして社会生活を営む生き物ですから、客観的に口臭が認められないにも関わらず、自分自身に口臭があると信じることは、つまり、社会生活をしていくうえで良好な人間関係を築くことに失敗した自分への言い訳になっているのです。

口臭のように他人との接触に直接影響を及ぼす要因になる人間心理の変化は微妙なもので、心身症の半分が口臭を訴え、性格的には几帳面、繊細、潔癖症の人がなりやすいのです。

口臭の多くは客観的な原因を伴わず、心理的なストレスが自らの身体に向かって放出された結果なのですから、的確な心理的なサポートを受けることも必要です。

特に都会生活者はストレスが多く、口臭を訴える人が多くいます。そのような方々の内なる悩みの手助けとなることを主眼に、オーラルケアをご指導することが必要です。

そして、自臭症とストレス、唾液の分泌量と自律神経との関係性を紐解くことにより、今まで解明されていなかった医学的な問題点を解明することを考えています。

 

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