考察

口腔ケアと健康

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予防歯科 毎日 論文

口腔は消化器官の一部として身体全体とつながっているので、全身状態の影響を少なからず受けることになります。したがって、虫歯や歯周病が全身状態に影響され、逆に先進疾患を引き起こす誘因となることもあります。

社会情勢の複雑化や高齢化社会に伴い、全身疾患の背景も複雑化しています。虫歯や歯周病を治療しないまま放置し、長期間慢性炎症が口腔内に存在することによって、増殖したムシバ菌や歯周病菌、炎症性サイトカインが血液中に侵入することや、誤嚥によって、口腔から離れた心臓や肺などの遠隔臓器に達し、そこに付着・増殖し病気を発症させ悪影響を及ぼすと考えられています。新たな疾患を引き起こす可能性もあります。

わが国の死因は、戦前は結核・胃腸炎・肺炎などの感染症が中心を占めていたが、近年では①悪性新生物(28.5%)、②心疾患(15.5%)、③肺炎(9.9%)、④脳血管疾患(9.9%)であり、四大死因となった。これらの4大死因のうち、肺炎を除いた3大疾患は、40歳前後から死亡率が高くなり、いわゆる働き盛りに多い疾患であることから、「成人病」という名称でよばれるようになった。しかし、その後の研究などによって、3大疾患の原因は、運動、睡眠、喫煙、飲酒、ストレスなど、日常の生活習慣に深く根ざしており、成人ばかりでなく子供でも罹患する恐れがあることが明らかになった。そのため平成8年に厚生労働省は「成人病」という加齢に伴った身体の変化が引き起こす疾患という概念から、「生活習慣病」という生活習慣を改善することにより、病気の発症や進行が予防できる疾患であるように名称を改めました。

生活習慣病には、上記であげた悪性新生物、心疾患、脳血管疾患(脳卒中)のほかに、糖尿病、肥満、高血圧症、高脂血症、歯周病などが含まれます。

歯垢(プラーク)1mg中には一千万個以上の細菌が含まれており、そのうち約25%が生菌であると言われています。プラーク中の細菌が、これらの四大死因と少なからず関与していることが解明されてきています。

したがって、虫歯や歯周病を予防し、口腔ケアをコントロールすることは、単に歯や口の健康を守るのみならず、全身の健康を守ることにもつながり、人生80年以上の高齢化社会を豊かで快適に過ごすために極めて重要となると考えられています。

一般的に、人は健康そのものに対する興味や認識は高いといってよいでしょう。しかし、病気の実体を目でとらえるのは困難です。歯肉に炎症があると歯肉が発赤・腫脹し、出血することで、症状を目で見ることができます。その原因であるプラークは肉眼では確認しにくいのですが、プラーク染色剤を使用すればピンクや紫に染まり容易に目で見ることができます。歯肉に炎症がある場合は、プラークの付着と関連があることを患者自身に気づかせ、プラークをブラッシングや口腔ケアで除去することで、炎症が改善され、赤く腫れていた歯肉が良くなることを実体験させることは極めて重要です。さらにプラークの形成が、食生活や生活習慣とも密接に関与していることを気づかせ、人の食習慣や生活習慣を改善することによって歯肉の炎症が改善することを自己学習させ、問題解決能力を育むことは、人生80年以上の高齢化社会における、生涯にわたる健やかなQOLおよびADLを営むことができる基礎形成に役立つと思う。

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