考察

味覚と自律神経

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味覚 論文

味覚は唾液と密接に関係していて、唾液分泌のコントロールは自律神経が関係しています。

唾液は唾液腺で作られるが、その量は一日に1~1.5リットルにもなる。

では唾液がどのようなときに分泌されるか、例えば梅干を見たり、酸っぱい食べ物や好きな食べ物を見たり、においをかいだりすると、条件反射が働いて唾液がでます。

条件反射による分泌は、パブロフの犬として知られている実験によって明らかになり、ベルを鳴らしてからエサを与えることを繰り返したところ、ベルを鳴らしただけで唾液が出るようになった、という実験です。実際に食べる時も唾液は出ますが、食事中は、味覚、嗅覚、口腔感覚に刺激が加わって、さらさらとした漿液性の唾液が分泌されます。専門的には刺激時唾液といわれ、消化作用を助けます。ちなみに睡眠中に分泌される唾液を安静時唾液といい、これは少量のネバネバした粘液性の唾液で、朝起きて口臭がするのはこのためです。

「固唾をのんで見守る」という表現があるが、ことに成り行きが気がかりで、緊張して見守っているときに、唾液が口のなかに溜まり、それをごくりと飲み込む様子を表しているが、この時唾液が出るのは、自律神経の働きによります。

唾液の分泌は、交感神経(アドレナリンの作用)と副交感神経(アセチルコリンの作用)の自律神経に左右されます。固唾をのんで見守っているときは、緊張することによって交感神経が優位となりますから、ネバネバとした粘液性唾液が溜まって、ごくりと音をたてるが如く飲み込むことになり、分泌量としては少なく、口が渇いている感覚が残るはずですので、味覚も減退するはずです。

また、マラソンなど、走っているときはテンションが上がり唾を吐きたくなることがあります。そのときに吐き出す唾は、ネバネバして糸を引くような状態になっていると思います。これも交感神経が優位になって、粘液性唾液が分泌されてくるためです。「マラソン中は吐き出さないで、ごくりと飲み込めばいいのに」と思う人もいますが、それは無理なのです。飲み込むことを嚥下といいますが、その時に呼吸もします。マラソン中に嚥下のために呼吸などをしていては、走りのリズムが狂ってしまいますので、選手は唾をのみ込まず、ペッと道端に吐くのです。当然、運動中の味覚は減退し、食欲はなくなります。

副交感神経優位となるリラックスした状態のとき、唾液の分泌量が増えます。

唾液腺は、大唾液腺と小唾液腺に大きく分かれ、小唾液腺には、口唇腺、頬腺、臼歯腺、口蓋腺、舌腺などがあります。唾液の分泌が多い大唾液腺には、耳下腺、顎下腺、舌下腺があり、そのなかでも耳下腺が最も大きい唾液腺となります。

耳下腺からは、ほとんど水成分からなっている、サラサラとした漿液性唾液のみが分泌されます。顎下腺と舌下腺からは、サラサラとした唾液だけでなく、ネバネバとした成分(ムチン)を含んだ唾液も出ます。副交感神経が優位となるリラックスした状態のとき、サラサラとした唾液が分泌されます。

交感神経が優位となっている緊張状態では、ネバネバとした唾液が分泌され、口が渇いた感触になります。粘液性唾液が盛んに分泌されれば、口の渇きも消えるのではないかと思われるが、口が分泌できる唾液総量の最大量は決まっていて、そのうちの粘液性唾液の最大量は、漿液性唾液の最大量を上回ることはありません。粘液性唾液が最大限分泌されたとしても、総唾液量の2割弱です。交感神経が優位になって、粘液性唾液が最大限に分泌されたとしても、副交感神経が抑制されているため、漿液性唾液も抑制されますから、唾液の分泌量としてはどうしても少なくなってしまいます。出るのは固唾ばかりで、潤いや味覚は得られないはずです。

食事のときにサラサラとした唾液が分泌される。と書きましたが、同じ食事でも、緊張感充満といった場面での食事は交感神経優位となり、漿液性唾液の分泌は抑制されてしまいます。「緊張で食事が咽を通らない」という表現が良く使われるが、唾液の分泌が少ないために嚥下が出来ない。という仕組みを正確につかんだ、極めて科学的な表現であります。

したがって、厳密に言えば、リラックスした状態で食事をするときに、刺激時唾液の分泌が促され、さらに副交感神経優位で一層の唾液分泌がうながされることにより、唾液の溶解作用により、食物中の味物質を溶かし、舌などの味雷の受容体と反応するのを助け、味覚を促進させることにより咀嚼・嚥下が促されることになります。

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