考察
咀嚼と自律神経と腸内環境の関係性について
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昔から歯は健康の源といわれ、よく噛んで食べると栄養の吸収が促進され、免疫力も高まり体が丈夫になるといわれてきた。また、原因不明の頭痛・肩こり・腰痛・難聴などが、かみ合わせの異常と関係があるということは以前から指摘されていた。しかし、噛むことと自律神経・腸内環境の関係性は最近までよく分かっていなかった。こうなると、咀嚼という概念を根本的に見直さなければならないのかもしれない。
そもそも咀嚼とは、食べ物を切断し破砕して、唾液と混ぜ合わせて食べ物の塊(食塊)をつくり、嚥下しやすい硬さと大きさにする働きであるといわれてきた。つまりその機能は、胃や腸における消化吸収を助ける補助的役割と考えられている。本当にそうであるなら、初めから軟らかくて噛む必要性のない食べ物か、流動食で栄養をとれば、脳や体の健康は保たれるはずである。しかし、現実には咀嚼しなくなると、全身に様々な機能不全が現れてくる。
咀嚼は、基本的には脳で形成された指令によってつくられるリズム運動である。その運動により顎・口腔・顔面領域の感覚受容器(感覚センサー)が刺激されて、感覚情報が脳に入るというメカニズムをとっている。口腔粘膜や舌には、味覚を感じる味雷(化学センサー)、触覚・圧痛を感受する歯根膜など(機械センサー)、冷温を感受する歯髄など(温度センサー)、痛みを感受する(侵害センサー)など、各種の感覚センサーが豊富に存在している。したがって咀嚼のあいだには、口腔内の食べ物の物理的・科学的刺激によって、大量の感覚情報が脳に流れ込んでいるはずである。この情報は、手足や体の他の部位からくる情報に比べても、けた違いに多いといわれている。これらの感覚受容器からの情報は直接咀嚼に関係している脳の大脳皮質だけでなく、記憶や情動の形成にも関与する視床下部や大脳辺縁系などの上位脳へも伝わることがわかっている。
さらに、咀嚼するときには唾液の分泌が起こり、よく噛めば噛むほど唾液の分泌が増加する。唾液は血管拡張物質や神経成長因子などの生理活性物質を放出しているので、咀嚼によって唾液の分泌が増えれば、血流のなかのこれらの物質濃度が高くなるため、自律神経のパワーバランスも改善されることは十分考えられる。反対に食べ物を噛まずに摂取すると、生体の存在にとって重要な情報の欠落が起こり、全身の臓器調節に障害が発現することになるわけである。現代のように加工食品があふれ、ほとんど咀嚼せずに飲み込むような食事を続けていれば、全身調節を司っている自律神経が乱れ、予想もつかない病気を引き起こす恐れがあるといえます。
よい咀嚼運動を行うことで全身の生理に好影響を与える可能性があることの例を挙げると、たとえばスポーツの世界では世界トップレベルの選手は試合中にガムを噛んで唾液の分泌を促し、副交感神経を優位にしてリラックスすることによりパフォーマンスを向上させています。なかにはそれほど歯並びが悪くない選手でも競技能力を高めるために歯列矯正治療をしています。良いかみ合わせが運動能力を高めると考えられているからです。
カール・ルイスやアトランタオリンピック男子陸上100メートルのリロイ・バレル(前世界記録保持者)も歯の矯正装置(ブラケット)を装着して試合に出ていました。
日本は世界史上でも稀な高齢化社会に突入してきた。しかし、日本人の歯の平均寿命は恐らく先進国のなかでは短いグループに入るのではないでしょうか。その意味でも日本は特殊な国といわねばならない。それゆえ、2025年問題と叫ばれているが、その時には国民の60%がインプラントや入れ歯を使うことになるだろうと予測される。つまり、近い将来十分な咀嚼能力を持たない高齢者が大量に生み出されることになる。このことの本当のリスクを今はだれも気付いていない。
我々は普段、体の健康に関心をもつことはあっても、口の健康にはほとんど注意をしていない。しかし、咀嚼が人間の健全な生活を営むうえで、想像以上に重要な役割を果たしていることは間違いないのである。癌や心臓病のように生命に関わる疾患だけが我々にとって重要なのではない。硬い食べ物や食物繊維をきちんと咀嚼することにより、まず、血中の悪玉コレステロール値を下げ、動脈硬化や高血圧を予防する。つぎに、腸の運動を高めて便秘を防ぐ一方、肝臓が脂肪をつくるのを抑え、肥満を予防し、血糖値も下げるので糖尿病予防にも良い効果があります。また、食物繊維が食べ物のなかの発ガン物質を吸着して、腸内で悪事をせずに、早く体外に追い出し、腸内細菌を増やし腸内フローラが改善することによりNK細胞が活性化することは、癌を予防することを考えると、咀嚼と腸内環境そして癌は密接に繋がっている。
癌や心臓病も重要であるが、むしろ、はっきりとした病名をつけられない体の不調こそが、現代人の健康不安感の源である。
このような原因不明の病気のいくつかは、かみ合わせの異常や十分に咀嚼しないことからきていると私は考えている。
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